ゼロックス・パロアルト研究所のチャールズ・サッカーとエド・マクライトは、自分たちが開発したアルトの斬新さに満足していた。とりわけ、タスク・スイッチング機能による画面制御を気に入っていて、これを特許申請することにした。
ある日、同研究所の顧問をしていたウェズリー・クラークが、サッカーらのオフィスを訪れた。クラークは、50年代に対話型コンピュータ「TX−2」を開発したことで知られ、サッカーやマクライトにとってはカリスマ的な存在だった。
クラークは、言った。
「やあ、アルトのドキュメントを読んだけど、アルトはとても面白いね!」
サッカーとマクライトは、それを聞いて感激した。が、クラークは、
「ところで、アルトとTX−2の関係について、教えてくれないかな。とくに、タスク・スイッチング機能について」
と、質問した。ふたりは顔を見合わせて、
「あの〜、あまり、関係ないかと……」
と、しどろもどろに返事をしたが、
「そうか。たまたまここに、TX−2について発表した論文がある。これを置いていくから、次にぼくが来るまでに、ちゃんと質問に答えられるようにしておくんだよ」
そういって、クラークは去っていった。
ふたりはあわててTX−2の論文を読んだが、そこには、彼らの「発明」したタスク・スイッチング機能とそっくり同じものが、「マルチシーケンス・プログラミング」として発表されていた。TX−2が完成したのは、アルト完成の10年以上まえのことである。ふたりが特許申請を取り下げたことは、言うまでもない。
後日、サッカーらはウェズリー・クラークに平謝りしたが、最後にこう付け加えた。
「一言だけ言い訳させて下さい、ウェス。ぼくらはその頃、まだ中学生だったんです」
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