未来をつくった人々

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 未来をつくった人々/ゼロックス・パロアルト研究所とコンピュータエイジの黎明
  マイケル・ヒルツィック著、エ・ビスコム・テック・ラボ監訳、鴨澤眞夫翻訳
   毎日コミュニケーションズ・平成13年

 Michael Hiltzik, Dealers of Lightning : XEROX PARC and the Dawn of the Compter Age,1999.の邦訳で、ゼロックス・パロアルト研究所(PARC)の最初の15年間を描いたドキュメンタリーです。1970年代に、すでにIT社会の原形をデザインし、未来を先取りしていたエリート集団の軌跡を描いています。研究管理者ロバート・テイラーを中心に、PARC開設から、ロバート・テイラーが同研究所を去るまでの期間を扱っています。もちろん、コンピュータ界のカリスマであるアラン・ケイの活躍についても、詳しく書かれています。

 ゼロックスPARCは、コンピュータ史のなかで外すことのできない重要な舞台です。しかしその記述は、いずれも断片的であったり、真偽の疑わしい伝説であったりします。本書は、PARCの全貌と、そこで起きた事実を検証した、稀有な本です。あまりにも有名なPARCですが、これをテーマとした邦訳書が出たのはおそらく初めてでしょう。
 PARCが産み出したのは、GUIワークステーション(マウス・アイコン・オーバーラップウィンドウなど)、デスクトップ・パブリッシング、フルカラーCGソフト、VLSI、レーザープリンタ、イーサネット(社内LAN)など、現在の電子オフィス環境のほとんどです。『ジュラシック・パーク』などのハリウッドCG映像を産み出したジオメトリ・エンジン(シリコン・グラフィックス社のCG専用コンピュータ・チップ)も、この研究所の設備を借りて開発されている。インターネット・プロトコロルTCP/IPも、PARCでの研究実績を下敷きに作られたといいます。

 もっともドラマチックなのが、スティーブジョブズが初めてアルトのデモを見学したくだりを描いた、「chapter23スティーブジョブズ、舞台に出たりて曰く」です。すでに伝説化した場面ですが、これまでの伝説を覆す、意外な事実が語られています。ジョブズとアルト開発者との間には、火花の散るような緊張関係があったのです。

 原題は、「稲妻の使い手たち」とでも訳すべきでしょうか。これは、ロバート・テイラーが研究所の管理手法として使っていた「ディーラー方式」にちなんだものであり、アラン・ケイが『ローリングストーン』誌のインタビューでPARCの研究員を評した「稲妻を素手で扱う(deal)のに慣れた人々」という言葉にも引っかけたもののようです。

 付録に登場人物の人名英和対照表、用語解説、索引、参考文献表(邦訳タイトル付)があります。さらに、年月日入りの緻密な年表があり、登場人物一覧(PARC当時の肩書きと業績)と、その現在の肩書きまであります。
 これだけ完璧な本作りをしていながら、訳者あとがきや原著解題のたぐいがないのが惜しいところです。
 (カゼの秀丸さん)


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