かむ(石偏に氏)計画 0.はじめに  僕は大学時代、パソコンの将来について考えました。そして進化したパソコンは情報を伝えるという面での紙に取って代わるだろうという結論に達しました。液晶技術は確実に進化すると思われました。ディスプレイについては問題無いでしょう。問題となるのはバッテリーとキーボードだと思われました。バッテリーに関しては、僕の専門外だったので、僕はキーボードをなんとかしようと思いました。  以前、パソコンが普及すれば紙の消費量が減ると言われていました。しかし現実にはプリンタで出力する量が増え、紙の消費量は増えてしまいました。これは、どうしてでしょう。僕は、これは現在パソコンで気軽に文章を読めない事から来ると考えています。紙に印刷されたものだったら気軽にどこでも読めるのに対し、パソコンで読もうとするとわざわざ起動しなければならず、また手に持って読むといった事ができません。これが、パソコンでも気軽に読めるとなって初めて、紙の消費量が減ると思います。  現在、書くという部分ではパソコンが大いに使われています。しかし、読むという部分では、メールやホームページに書かれた内容を読むという事もありますが、ワープロソフトで作られた文章等は、紙に印刷されたものを読みます。わざわざパソコンで読むには、まずパソコンがある場所に行って、そこでパソコンを起動し、それから読まなくてはなりません。ノートパソコンの場合は、読みたい場所にパソコンを移動して、読むこともできますが、紙のように手に持ちながら読むといった事は不可能で、紙に比べると取り回しがやっかいという感じは否めません。  パソコンで気軽に文章を読めるようにするには、キーボードを何とかしなければなりません。僕は大学以降、ずっとこのキーボードを何とかするという問題を考え続け、ついにある装置を思いつきます。これがキーグリップです。 1. キーグリップ  キーグリップは、まずノート型パソコンに付けるタイプのものが普及すると考えています。キーグリップを備えたノート型パソコンは、液晶ディスプレイの両側、あるいは片側に少し出っ張りがあり、その前面には親指用のボタン、背面には残り4本の指用のボタンがあるといった形になります。このようにする事で、手で持ちながらの入力が可能となります。 図1.キーグリップを備えたノート型パソコンの前面(両手用) 図2.キーグリップを備えたノート型パソコンの背面(両手用)  このようなキーグリップを備えたノート型パソコンでは、持っても負担にならない重さで、起動時間が十分許せる範囲にあれば、これを紙の代わりに使う事が可能となってきます。  キーグリップでは、文字の入力を少ない場合で片手分5個のボタン、多い場合で両手分10個のボタンで、すべて済ませてしまいます。5個のボタンでは、そのままではアルファベットさえも満足に入力できません。どうやっていろいろな種類の文字を入力するのかと言うと、人差し指と薬指を同時に押すといった組み合わせで、文字を入力できるようにするのです。5個のボタンだと2の5乗で32通りの組み合わせがあります。ただこれには全部押さないという組み合わせも含まれているので、32から1つ引いて31通りとなります。31通りだと日本語を入力するのに十分ではないので、2回の入力で1文字を入力する事にします。両手の場合は片手分2回と考える事ができるので、1回の入力で1文字を入力できます。両手の場合、片方の手を全く押さないという組み合わせも考えられるのですが、片手、両手を時により使い分ける事を考えて、そういう組み合わせは使わないようにした方が良いと思われます。31通りを2回だと、31の2乗で961通りの文字を入力出来ます。これだけあれば十分でしょう。  この章の最初にも書きましたが、まず普及すると思われるのが、ノート型パソコンに付けるタイプのキーグリップです。続いて、デスクトップ型パソコン用のキーグリップが普及すると考えています。ただこれは、デスクトップ型パソコン用だけと考えるよりは、ノート型パソコン用着脱式キーグリップも同様と考えた方が良いかも知れません。また名称も、単にキーグリップだけで良いと考えています。 図3.キーグリップ  デスクトップパソコン用には、握って使う形になります。ノート用と同じで片側5個のボタンがついています。キーボードの様に机の上に置いて使わなくてはならないといった制限がありません。冬の寒い時など、コタツにキーグリップごと手を突っ込んで使う事もできます。キーボードより遥かに自由な格好で使う事が出来ます。 2. キーグリップと日本語  さて、ここで日本語ですが、母音は「あ、い、う、え、お」の5つ。これは、片手用のキーグリップの場合は、発音が子音+母音と母音が後に来る事から、2回目に割り当て、両手用の場合はローマ字表記で母音は右側に来るので、右手側に割り当てるのが良いのではと考えています。そして5個のボタンを押す組み合わせのうち、1個のボタンだけを押す組み合わせがちょうど5通りあるので、これに母音を割り当てるのが良いと考えています。  あ行ですが、これを現在のキーボードと同じように1回だけ(あるいは右手だけ)で入力できるようにしてしまうと、1章で説明した2回の入力で1文字を入力するという約束に反してしまい、混乱が生じてしまいます。そこで、あ行も子音があると考えます。すると子音は「あ、か、さ、た、な、は、ま、や、ら、わ、が、ざ、だ、ば、ぱ」の15個になります。母音の時とは反対に、片手用のキーグリップの場合は1回目に割り当て、両手用の場合は左手側に割り当てるのが良いのではと考えています。5個のボタンを押す組み合わせのうち、1個のボタンだけを押す組み合わせは5通り、2個のボタンを押す組み合わせが10通りで、これでちょうど15通りとなります。  片手用と、両手用では、片手用で1回目、2回目と押す組み合わせが、両手用の左手側、右手側となるので、片手用の入力の仕方を覚えれば、両手用の入力の仕方も簡単に覚える事が出来る。反対に両手用の入力の仕方を覚えれば、片手用の入力の仕方も簡単に覚えられるという様になると考えられます。 3. キーグリップのボタン  さて、キーグリップの各ボタンですが、キーボードのようなボタンの場合、押す押さないがはっきりしてしまい、デスクトップパソコン用のキーグリップならまだしも、ノートパソコン用のキーグリップのように、文字入力以外に装置全体を支える必要がある場合は、誤入力してしまう事が多くなると思われます。そこで、単純なボタンではなく、押している力の大きさを検知する事が出来るセンサを備えるようにしたらどうでしょうか。そしてソフトウエアで、それが文字を入力する意思があるものか、装置を押さえる為にかかってしまった力か判断して、適切に処理するようにすれば良いのではないかと考えています。また、小指を押すのにつられて、薬指も動いてしまうといった事もあるので、これも本当の入力か、つられての入力かソフトウエアで判断するようにしようと考えています。現在、押している力の大きさを検知する事が出来るセンサとして圧電素子を使うと良いのではと考えています。  装置の重さですが、現在だとまだある程度重くなってしまうと思います。ただこれは技術が進歩すれば、小冊子程度の重さになるだろうと考えています。この重さというのが現時点で最も重要な点かもしれません。値段は、企業で紙の替わりに使え、保管スペース等が節約できるという点を理解してもらえれば、今のデスクトップパソコン程度の値段か、それより多少高くても使ってもらえると考えています。それに対して重さは、これが重たすぎると、値段がいくら安くても買ってもらえないと考えています。 4. キーグリップの歴史  さてこの章では、ちょっと角度を変えて、キーグリップの歴史について書きます。大学時代僕は4年の研究室で「マルチメディアデータベース」について研究するグループに入ります。ここで、MITの「マン・マシンインターフェイス」という本を読みます。この影響もあってか、「はじめに」でも書いたとおり、僕は将来のパソコンは情報を伝えるという意味での紙の代わりになると考えます。そして将来のデスクトップパソコンは、机の表面に液晶ディスプレイを備えたようなものとなり、沢山のウインドウ(という言葉はその当時知らなかったと思いますが)を開いて仕事をするようになると考えました。4年の研究室では、「鳥類図鑑」を作る事になっていたのですが、この内部に自由に記述できるノートを付けようという事になったのですが、僕は、これは「鳥類図鑑」の外部に作るべきだと考え、学友を論破します(当時の僕は人を論破する事に喜びを感じる人間でした)。学友達が、外部に作ってもどうやって見るのだ、と尋ねるのに対して、広い机状のディスプレイにウインドウを沢山開いて、鳥類図鑑を参照しながらノートを取れば良いだろう。今はまだ無理だが、将来技術が進歩してそういう装置が出てくる。その時代の事を考えても良いだろうと発言したのを良く覚えています。  さて、大学時代以降、手で持って使うノート型パソコンにおいてネックとなるキーボードに代わる装置を考えつづけます。そしてある時、キーグリップを思いつきました。これがいつの事だったのか、もうすっかり忘れてしまいました。1994年頃ではないかと思っています。  キーグリップについて初めて資料をまとめたのは、1996年9月16日の事です。『キーグリップについて』と題されたその資料はマッキントッシュのクラリスワークスで作りました。残念ながらフォントの関係で、当時と同じ物を作れません。図の位置がずれて、文章と重なってしまうのです。頑張ればうまくいくのでしょうが、今はその気力が起きません。『キーグリップについて』は、ある女性と仕事の上司(コンピュータとは関係の無い企業だったので、的外れだったのですが)に送りました。二人には難しいと言われてしまいました。 それから、NECでM式キーボードを発明した森田正典さんにも送りました。M式キーボードは『キーグリップについて』に登場し、森田正典さんの『これが日本語に最適なキーボードだ』からの引用が『キーグリップについて』にはたくさんあります。M式キーボードとキーグリップの組み合わせは無敵と考えていました。現在は、M式キーボードの成果を導入すると900通り分(それより幾らか少ないが)も占めてしまうので、使いたい時だけ使うという風にしたいと考えています。M式キーボードについては、後の章で書こうと思います。 この『キーグリップについて』では、指点字あるいは点字タイプライターにも触れています。キーグリップでの入力を覚えると、人の手をキーグリップに見立てて文字を打つことで、会話ができます。障害を持った方の役に立つ部分があります。ただ同時に手の不自由な人には、残酷な機械となります。『キーグリップについて』では、これを弱点として挙げています。  続いて資料をまとめたのは、1999年12月26日の『スーパーブックプロジェクト』です。この『スーパーブックプロジェクト』はホームページで公開しています。  ここで、キーグリップに単純なボタンではなく、押している圧力の大きさを測定できるセンサを使うと良いのではとの提案が出てきます。ここでもM式キーボードが登場し、5本指とぴったりマッチするという事が示されます。本当に気持ち良いほどマッチします。M式キーボードのシフトと、5本指を押す組み合わせで考えられる反転をシフトとみなすとぴったりきます。最後の章では、キーグリップ付のノートパソコン(仮称スーパーブック)が、キーグリップがキーボードよりも慣れるまでが大変ということから、必ずロールプレイングゲームを付けて、そのロールプレイングゲームをクリアする頃には、入力の仕方を覚える事ができるようにするといった提案があります。この様に最後の章ではスーパーブックをどう展開させていくのかが述べられています。  この『スーパーブックプロジェクト』を元にして、2000年の6月に特許を出願し、続いて審査請求をします。この内容もホームページに「グリップ式入力装置」として公開しています。これについては、2002年9月10日付けで、拒絶理由通知が来ます。拒絶理由がたくさん書かれており、処理に困ったので自分で意見書を出すのではなく、特許事務所に意見書を出してもらいました。最初の請求範囲から大分請求範囲を狭めて、なんとか特許査定がおりました。請求範囲を狭めたので、あまり意味の無い物となってしまいました。  最初の特許を出した後暫くしてから、実際の指の組み合わせと文字の割り当てを考えました。その成果を2003年10月に特許出願しました。「キー配列」としてホームページで公開しています。それからノート用キーグリップの裏面側の入力部についても新しく考えついた事があります。それも2003年10月に特許出願しました。「入力装置」としてホームページに公開しています。これらの成果をまとめて、新しく書いた論文が「かむ(石偏に氏)計画」です。これもホームページで公開しています。今回の文書と同じ名前になってしまいました。 5. 石偏に氏  僕は、パソコンという言葉を漢字で現す必要を感じていました。中国での電脳はなかなか良いと思うのですが、出来れば漢字1字で現せると良いと考えていました。そうして思いついたのが、石偏に氏という漢字です。パソコンのメモリやCPUはシリコンから出来ていて、このシリコンというのは石から造られるので、石偏とし、パソコンが情報を伝えるという意味での紙の替わりになると思われるので、紙の旁である氏をもらってこの漢字が出来ました。読み方は訓読みで「かむ」音読みで「し」でどうでしょう。  最近、新しい漢字というものが創られていませんが、僕は創っても良いのではないかと考えています。外来語を熟語化する努力さえ最近あまり行われていないように思われます。欧米では、新しい概念の言葉が次々作られています。それに対して、漢字圏の国では、あまり新しい言葉が作られていないように感じます。欧米の新しい概念を熟語化する。そして必要があれば新しい漢字を創るといった事をしていくべきだと考えています。もっと漢字で現す努力をするべきではないでしょうか。それから漢字コードは、新しい漢字が創られる事を想定するべきだと思います。新しい漢字が創れないという事は、その言語が進化し続ける事を否定する事につながり、将来に禍根を残す事になると思います。  現在ユニコードが主流になりつつありますが、これが日本語にとって本当に良い形なのか慎重に見極める必要があると考えています。もし日本語にとって良い形でないなら、別の手段を考える事がとても重要になるのではないでしょうか。 6. ノート型かむ(石偏に氏)  現在のノートパソコンは、膝の上に乗せてキーボードを打つことが出来ますが、手に持ったままの入力は不可能だと思われます。携帯型情報端末では、手に持ったままの文字入力が可能ですが、効率が良いとは言えません。ノート型かむ(石偏に氏)は、第1章で示したように手に持ったままの入力が可能となっています。  第1章、図2のように、片手分の5個のセンサを配置するとした場合、手の大きさにより、その位置を変えなければならないと思われます。それは非常に不経済なので、センサをある決まった位置に配置するのではなく、たくさんのセンサを手が届くと思われる範囲すべてに配置して、力の加わった大きさと位置関係で、どの指の入力があったかをソフトウエアで判断するようにします。こうする事によって、手の大きさによっていろいろなサイズの装置を造るといった事柄を回避出来ます。 図4.ノート型かむ正面図 図5.ノート型かむ裏面図(囲まれた範囲にたくさんのセンサが埋め込まれている)  ソフトウエアでは、装置後ろ側4本指が当たっている部分を、位置関係からどの指のものかを判断し、そこに一定以上の力が加わったら入力と判断するようにするようにします。場合によっては、他の指に加わった力との関係で、一定値が変化します。 7. 新しい文字配列  現在のキーボードの文字配列は、あまりにも滅茶苦茶ですが、これを何とかする必要があると考えていました。僕は日本語の特性について少し考察しました。そこでや行の子音、ローマ字表記でのyが、まりあ(maria)とまりや(mariya)の区別が曖昧であることからも解るように本来iであること、およびわ行の子音、ローマ字表記でのwが、うーあ(u−a)とうーわ(u−wa)の区別が曖昧であることからも解るように本来uであることに気付きました。そこでyとi、wとuを関連付けて配置してはどうかと考えました。 図6.y、i、w、uの配置  50音表で現在わ行い段の「ゐ」とわ行え段の「ゑ」が抜けていますが、この文字を失ってしまって本当に良いのか、疑問に思っています。それ以外で現在抜けている、わ行う段(wの本質はuなので、uuとなり「う」となってしまう)に発音するときの口の形から連想できる「。」を割り当て、や行い段(yの本質はiなので、iiとなり「い」となってしまう)に発音するときの口の形から連想できる「、」を割り当ててはどうでしょうか。それから過去に失われてしまったや行え段に「ん」を割り当てると良いのではと思っています。  母音側の配置ですが、親指だけを押す組み合わせに「お」、人差し指「う」、中指「あ」、薬指「え」、小指「い」としたらどうかと考えています。これは、発声練習での「あえいおう」を中指から順に割り当てたものとなり、「あいうえお」として見た時も規則的になります。大(OO)きい指で、親(OYA)指に「お」、長(NAGA)い指で、中(NAKA)指に「あ」、小(TII)さい指で、短(MIZIKA)い指に「い」を割り当てました。  子音側の配置は、図7に示します(ここでは、母音側も示しています)。これは「キー配列」としてホームページに公開したものから変わっています。 図7-1.5個のボタンを押す組み合わせに割り当てる文字右手 図7-2.5個のボタンを押す組み合わせに割り当てる文字左手 8. 指点字  目の不自由な福島さんという方がいます。この方は、点字を読め、また点字タイプライターで点字を打つ事が出来たそうです。この福島さんは、あるとき耳も聞こえなくなってしまったそうです。つまり、目からも耳からも情報を受け取る事が出来なくなってしまいました。この時、この福島さんのお母さんが(この方も点字タイプライターを打つ事が出来るそうなのですが)福島さんの指を点字タイプライターに見立てて点字を打ち、自分の言葉を福島さんに伝えました。これが指点字の始まりです。指で言葉を交わす方法を編み出したのです。  キーグリップは、点字タイプライターと似ています。点字タイプライターが3本の指しか使わない所、キーグリップは5本指使う所が大きな違いです。キーグリップの入力方法を覚えれば、指点字と同じような方法で、指による会話が出来るようになります。現在の指点字は、口の利けない方、耳の不自由な方と会話しようと思うと、わざわざその為に点字タイプライターの入力方法を覚えなければなりませんが、キーグリップが一般的になってこれで文章を書くようになれば、それを覚えた人同士での会話が可能となり、健康な人と、口または耳の不自由な方との会話がスムーズに出来るようになります。また健康な人同士でも、ひそひそ話をする代わりに指で言葉を交わしたり出来るようになります。  このように口または耳の不自由な方には有効なキーグリップですが、手の不自由な方にとっては、とても扱いにくい物となってしまいます。まだキーボードのほうがましだと思われます。キーグリップが一般的になっても、キーボードは造られ続けるべきだと思います。ただ、これはキーグリップと配列を揃える事を考えた方が良いと考えています。 9. M式キーボード  僕が注目しているものにM式キーボードというものがあります。これは普通のキーボードとキーの配列が全く異なっています。どういった並びかというと、基本部分は片手分で3段5列となっています。 M Y R W P E U I A O K S T N H G Z D 、 B 図8.M式キーボードの基本配置  図8のように、左手側に母音、右手側に子音を配置しています。ここまでは、簡単に思いつきそうですが、すごいのはここからで、このキーボードを発明した森田正典さんは、漢語(音読漢字で構成される語)について考察しました。そして漢語を構成する漢字の発音は短く、単音節か、せいぜい第220音節までであること、しかもその第2音節の種類は「う」、「い」、「ん」、「く」、「き」、「つ」、「ち」の7つに限られていることを発見しました。森田さんは、ここで漢字を5種類に分類しました。 ・ 単母音型…単音節のもの(例えば、「可」、「気」、「区」、「個」) ・ 複合母音型…第2音節が「う」、「い」のもの(例えば、「会」、「空」、「景」、「甲」) ・ 内音型…第2音節が「ん」のもの(例えば、「完」、「金」、「県」、「混」) ・ K型入声音…第2音節が「く」、「き」のもの(例えば、「核」、「蓄」、「的」、「特」) ・ T型入声音…第2音節が「つ」、「ち」のもの(例えば、「活」、「窒」、「節」、「卒」)  これと拗音(「虚」、「京」、「書」、「商」など)を考慮に入れたキーの配置が以下のようになります。 E U I A O M Y R W P e u i a o K S T N H Ei Uu Ui Ai Ou G Z D 、 B Ek Uk Ik Ak Ok My っ Ry ん Py En Un In An On Ky Sy Ty Ny Hy Et Ut It At Ot Gy Zy Dy 。 By 図9.M式キーボードの配置 図9、2段目のものはシフトキーを押すことで実現しています。また1段目の母音側中央の段はひらがな入力用です。これによって、漢字と仮名を区別して入力することが可能になります。  このような配列のキーボードにすることによって、漢字一字を左右1回の打鍵で入力することが可能になります。また、日本語の文章の場合、左右交互に打鍵するようになります。  さて、このように素晴らしい考えの元に作られたM式キーボードが、なぜ一般的になっていないのでしょう。  それは、やはり普通のキーボードが普及してしまっていたためと思われます。普通のキーボードに慣れてしまうと、他の方式に移行するのは大変です。僕自身もPC98用に出された楽々キーボード(M式キーボードのPC98版)を購入しましたが、実際に殆んど使っていません。  はっきり言って、このままM式キーボードではなく、普通のキーボードを使い続けるのは、日本にとって多大なる損失であると考えます。早急に、この事態をなんとかしなければと思います。 (参考文献:これが日本語に最適なキーボードだ  森田正典著) 10.「かむ」とM式キーボード  さて、話をキーグリップに戻します。ここで、森田さんの成果を取り込めれば、これほど素晴らしいことはありません。  片手分では5個のボタンがあるので2の5乗で32通りとなります。この32通りを分類すると、 ・ 全く押さない…1通り ・ 1つのボタンを押す…5通り ・ 2つのボタンを押す…10通り ・ 3つのボタンを押す…10通り ・ 4つのボタンを押す…5通り ・ 全てのボタンを押す…1通り となります。  ここで2つのボタンを押すに注目してみます。 図10.5個のボタンのうち2個のボタンを押す組み合わせ  図10の様に5通りずつ、2系統に分類できます。そして、3つのボタンを押す、4つのボタンを押すはそれぞれ2つのボタンを押す、1つのボタンを押すの反転と考えられます。よって、1つから4つのボタンを押すまでで、5通りが6系統、そして、そのうちの3系統はもう一方の3系統のシフトと考えることができます。  どうでしょう、これで見事に9章で示した、M式キーボードと揃えることができます。M式キーボードの考えを導入した配列について図11に示します。ただこれを導入すると961通りある組み合わせのほとんどを使ってしまうので、M式に合わせた配列を使うかどうかはユーザーの意思に任せようと考えています。 図11-1.M式キーボードの考えを導入した配列1 図11-2.M式キーボードの考えを導入した配列2 図11-3.M式キーボードの考えを導入した配列3 図11-4.M式キーボードの考えを導入した配列4 図11-5.M式キーボードの考えを導入した配列5 図11-6.M式キーボードの考えを導入した配列6 11.「かむ」作戦  さて、このようなキーグリップ付のノートパソコン(ノート型かむ)ですが、どのように展開していくのが良いのでしょうか。  はっきり言って、キーグリップはキーボードよりも慣れるまでが大変だと思われます。例えて言えば、キーボードがフォークであるのに対してキーグリップは箸といったところでしょうか。何か考えなければ、普及はおぼつかないでしょう。  そこでまず、「かむ」には必ずあるロールプレイングゲームを付けて、そのゲームにより入力の仕方を覚えてもらうというのはどうでしょうか。例えば、ゲーム中の木のあるそばで、左手小指と右手薬指と小指(この押し方で平仮名の「や」が入力できると仮定)を同時に押すと矢が作れるという様な機能をつけるといった工夫をすれば、キー入力を覚えるのも案外楽になるのではないでしょうか。  ポケットタイプのゲームマシン(実は文章入力にも十分使える、作戦名羊の皮を被った狼作戦)として普及させるのが良いのかもしれませんが、なるべくなら、高解像度の液晶を搭載したいと考えているので(72dpi程度ではなく欲を言えば360dpi、ただNECの高解像度のものでも210dpi程度だったと思う)、安く創れそうもないので、まずは企業に導入してもらうことを考えると良いと思います。  企業では、「かむ」のような製品は採用する価値があると判断されると期待しています。「かむ」により紙が不要となり、その保管スペース、また印字コストの削減、なにより、紙資源の節約が可能となるといったような点は結構評価されると考えています(ただ、消費電力が結構バカにならないといった事では意味がないと考えますが)。また取り回しも便利になるのではないでしょうか。ある原稿の最新バージョンの入手といったこともすぐにでき、検索によって探すのも楽になります。  そして、企業で普及してくれば、個人でも使おうという人が多くなり、通勤電車の中で「かむ」を使って立ち読みをするといった光景が見られるようになると思われます。 12.「かむ」のある生活  さて、「かむ」が普及した世の中は、どうなるのでしょうか。ここで僕の考えを紹介したいと思います。  保は朝起きると、朝食前にデスクトップ型かむの前に座った。デスクトップ型かむは、現在のデスクトップ型パソコンとは違った様相を呈している。机の表面全体がディスプレイになっているパソコンといった物である。そして机自体も傾斜している。ヴァネバー・ブッシュのMEMEXのような感じだろうか。保はここで朝起きるまでに送られてきた新聞(現在の新聞と違い、朝刊、夕刊という物がはっきりある訳ではなく、契約者には随時新しい記事が届けられる仕組みになっている。また記事の中には動画も含まれており、その動画も項目ごとに別けられているので、自分の気に入った動画だけを見ることができる)にざっと目を通した。そしてメールのチェックも済ませると、食事を取った。  今日は土曜日、平塚市博物館へ行く日だ。行きの電車の中でB5ノート型かむで読書をしながら、メモを取った。川崎から横浜まで、席が埋まっていたので立っていたのだが、かむなら立ったまま読んで書く事が出来る。そしてそれ程重くは無い。読んでいるのは、信長公記だ。他に織田信長関係の文献も平行して読んでいる。もちろん辞書ソフト、歴史百科事典といったものもあり、これらを常に参照している。取っているメモも、単なる文章だけではなく、信長公記その他の資料の関連ページへのリンクも含まれている(審査を通った本には、それを特定できるコードがふられており、そうでない本にはユーザー毎に独自のコードがふられている。それでどの本にリンクするかも特定できるようになっている)。保は将来書こうとしている、世界の史記の為の資料整理をしているのだ。丁度、日本の戦国時代の織田信長に差しかかっている所だ。読書しながら、胸ポケットに入っているパスケースサイズかむからイヤホンで音楽を聴いている。ちょっと古いが高校時代良く聴いたドナルド・フェイゲンのIGYを繰り返し聴いている。資料整理をしながらホームページを見ていると、購入したい本が出てきた。早速購入する意思があることを示し、ダウンロードした。これで家にあるメール&ホームページサーバかむにぶら下がっている装置のどれでも、この本を読む事が出来るようになった。購入代金はプロバイダ経由で請求が来る。といっても昔の紙の本より断然低価格で購入できる。おっとここでメールが入ったようだ。メールの本来の受信先は家にあるメール&ホームページサーバかむだが、デスクトップ型かむ、B5ノート型かむ、パスケースサイズかむ、携帯電話にもメールが来た事が通知され、どの装置でも読む事ができる。また通信する事で、過去のメールも参照出来る。今は丁度、B5ノート型かむで作業をしていたので、返事はそれで書いた。普段外出時に保は、メールのやりとりをパスケースサイズかむで行っている。メールの他に新聞も次々と届く。これはB5ノート型かむの下部に題名が表示され、保は気になるものだけを読んだ。新聞もメール&ホームページサーバかむに届く。書き忘れたがメールも届くと題名と差出人が下部に表示される。メールと新聞の差は殆ど無いと言った方が良いかもしれない。  そうこう言っているうちに、平塚へ着きバスで西海岸へ行き、漂着物を拾う会の集合場所に着いた。ここで保は胸ポケットに入っているパスケースサイズかむに鞄から取り出した小型カメラの出力端子をつなぎ、左耳のところに小型カメラをつけた。カメラにはマイクもついている。また、ディスプレイも付いており、これを左眼にあてる。そして、望遠、広角調整用のレバーも左の腰に付けた。これで、会の様子をビデオ撮影するのだ。このかむは電波時計とGPSを内蔵しており、正確な時刻と正確な位置が映像、音声と共に記録される仕組みになっている。今回の漂着物を拾う会では、ほとんど移動する事がないのでGPSは無意味だが、移動を伴う撮影の場合は、後で地図ソフトと組み合わせる事により、経路確認が簡単に取れて便利だ。かむの記憶装置としては、メモリーカードが使われている。大容量になっており、ムービーサイズ3200ドット×2400ドットで7日間連続撮影にも耐えられる。また、バッテリーも7日間連続使用に耐えられるようになっている。これはバッテリーの進化と省電力努力の成果だ。漂着物を拾う会が終わり、ビデオの撮影をやめ、パスケースサイズかむを取り出すと、バスの時刻表を調べた。あと5分でバスが来る。急いで西海岸バス停へと向かった。  さて、午後は漂着物を拾う会の資料整理だ。博物館の科学教室で先月拾って、洗い、乾かした資料を一つずつ博物館のパスケースサイズかむのカメラで撮影し、収集日、分類、資料名とともに資料カード(かむ上の)に情報を収める。そして科学教室に設置してあるプリンタで、収集日、分類、資料名、資料カード番号とバーコードを印刷して、資料とともにビニールに入れる。良く判らない資料は、B5ノート型かむの百科事典等で調べる。どうしても判らない物は、その写真をつけて調査依頼のメールを書き、専門の先生に問い合わせる。資料整理が終わって雑談した後、帰路についた。  帰りの電車で、平塚市博物館応援ページという、博物館における情報展示を考える会が作っているホームページの更新の作業に入った。保は博物館における情報展示を考える会の言い出しっぺだったので、会長にさせられてしまっている。またそのホームページも、もともと保の名前でやっていた物を、会としてやるように変えたものだ。保の担当は漂着物を拾う会と民俗探訪会だ。パスケースサイズかむからメモリーカードを取り出し、B5ノート型かむに入れる。午前中撮影した漂着物を拾う会のムービーを適当に区切っていく作業をした。そして簡単な説明と共に、ムービーを配置したページを項目ごとに作成し、それらのページを代表する小さ目の画像とリンクがあるメニューページを作成し、ホームページを更新した。ホームページは平塚市博物館にあるメール&ホームページサーバかむに置かせてもらっている。ムービーの形式はかむムービー形式で、撮影した日付と時間を自由に表示非表示できる他、地図ソフトと連動して、現在の位置そして辿った軌跡を表示する事もできる。地図ソフトも昔の物と違い、時間軸を持っていて何年何月何日の地形、道路を正確に表現できるようになっている。もっともあまり昔の時代には遡れないが。  家に着くと、デスクトップ型かむの前に座り、ここで朝平塚へ行く電車の中で作業した続き、織田信長についての調査を続けた。B5ノート型かむよりたくさんの情報を表示できるので、作業効率は非常に良い。たくさんの本を開いて、同時に見ながら作業が出来る。B5ノート型かむの場合はせいぜい2冊同時に見るのがいい所だ。もちろん切り替えて、何冊も見ることは出来るのだが、同時に見られないというのが残念な所だ。デスクトップ型かむは、入力部が分離していて持ったまま、いろいろな位置に動かせるので、手にかかる負担も少ない。保はその後、夕食を済ませ、家族と団欒し風呂に入って寝た。  さて日曜日、家族で過ごす時間が多いが、空き時間でコンピュータ博物館プロジェクトホームページの更新の為に、いろいろな文献を調べている。デスクトップ型かむの前に座り、両手にキーグリップを持ち、調べ物をしながらキーグリップで文章を書いている。時々右手でキーグリップを持ったまま画面を指す。それによりウインドウを移動したり、新しいウインドウを開いたりしているのだ。コンピュータ博物館プロジェクトはカゼの秀丸さんとの共同運営になっている。ホームページ自体は、保の家のメール&ホームページサーバかむに置いてある。3年後にコンピュータ博物館が開館する事になり、コンピュータ博物館プロジェクトもその開館準備団体のうちの一つに指定されているのだ。  それから、たもものホームページを見て、メールを送ってくれた方に、返答を書いた。かむの開発物語がNHKのプロジェクトXで取り上げられてから、たもものホームページのアクセスが非常に増えた。田部井理論の「哺乳類の起源」、「田部井宇宙論」に注目が集まっている。最近、哺乳類の起源としてマンモスが有力視されてきた。またビックバン宇宙論が間違っている事が証明され、田部井宇宙論を証明しようとする人が増えてきた。相対性理論は、根本から間違っている事が証明され、光・運動独立の定理が確立された。  午後8時になり、博物館における情報展示を考える会の会合が始まった。デスクトップ型かむの前に座っている。会員の現在の様子がデスクトップ型かむの画面上に表示されている。今回は6人の顔ぶれが見られる。皆マイクを付けている。そしてデスクトップ型かむの上部に取り付けられたカメラで撮影されている。他のメンバーには保の現在の表情が見えているはずだ。これから始まる「平塚のまつり5」特別展に、会としてどのように参加するかの会合だ。博物館における情報展示を考える会が発足してから、特別展では必ず情報展示を行っている。最近の会合で毎回問題となるのが、会の運営する平塚市博物館応援ページと、特別展での情報展示をどう差別化するかという事だ。最近はホームページの大容量化と、通信回線のブロードバンド化で、わざわざ博物館でかむを使った展示をする意味が薄れてきている。なんと無線通信で100Gbpsという速度が出てしまう。屋内LANでは1Tbpsもの速度がでる。メモリーカードの容量も100TBというものがあるくらいだ。最近では毎回結局そうなるのだが、ホームページに特別展の詳細を載せるのは、展示期間が終わってからにするという事に落ち着いた。この会合の様子はすべて自動的に記録され、後で見返す事が出来る。  月曜日になった。いつものように、新聞を読み、メールチェックを済ませると、出社した。行きの電車の中では、かむ関係の雑誌を読んだ。この雑誌というものも、記事が出来次第送られてくる。ただ連載物は毎月決まった日に送られてくる。今日はその日だ。  会社に着くと自分のデスクトップ型かむの前に座った。かむが出始めた頃は、B5ノート型かむを使う事はあったが、デスクトップ型かむは置く場所が無かった。また紙の資料も結構あったので、デスクトップ型かむにすぐには移行出来なかったのだ。3年ぐらい前に紙の資料から電子資料に完全に移行し、デスクトップ型かむが次々と導入された。紙資料の保管場所も、重要な物以外なくなり、空きスペースが出来るようになった。デスクトップ型かむは1台100万円以上する。もっとも、保はかむを開発した企業に居るので、他の企業よりかむ導入が早かったのだが。  さて保は、かむ開発中はかむ開発部隊に居たのだが、今はかむ上のソフトウエア開発部隊に居る。動画編集ソフト「かむ動画3」を開発中だ。今は設計書を書いている段階だ。すべてかむ上で処理している。設計書をわざわざ紙に印刷するという事はもう無い。設計書には、他の設計書を参照する場合、その情報が埋め込まれており、もし参照元の設計書が変更された場合、通知されるようになっている。ソフトの開発も、0から全部作るという訳ではなく、かむソフトプールから使えるものは利用する。かむソフトプールとは、かむ上で作られたソフトウエアパーツをたくさん保管しているサーバがあり、そこの会員となっているソフトハウスは、一定の使用料を払う事によって、必要なソフトウエアパーツを使う事が出来るようになっている。自分達が開発したソフトウエアパーツを登録して、そこから収入を得る事も出来るようになっている。ここに公開され、使い込まれたパーツはバグが少なく、安定しているので、なるべくここにあるものを使おうという風潮が生まれていた。またこれにより開発効率もあがっている。  さて明日は在宅勤務日だ。デスクトップ型かむが普及するようになり、通信速度があがった事によって在宅勤務を採用する企業が増えてきた。保の会社でも2年前から毎週水曜日が在宅勤務日、今年から毎週火、木曜日が在宅勤務日となっている。その為、家では出来ない作業を今日中に済ませてしまった。